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特許のクレームの書き方マニュアル|弁理士が初学者向けに徹底解説

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悩んでいる人

特許の書き方がわからない。特許請求の範囲(クレーム)の書き方は勉強したけど、上司から意味不明とか余計な構成を足しているとか言われて何度もやり直しさせられる。

特許文献を読んで勉強しようとしても特許請求の範囲(クレーム)の書き方が複雑で何を言っているのかわからない。本を読んでも初歩的なことしか書いていないので勉強にならない。どうすれば・・・

 特許事務所で弁理士・特許技術者をやっている方の中にはこうした悩みをかかえていないでしょうか。

 筆者も特許事務所に勤めて3年間悩み続けました。

 市販の特許明細書の書き方の本を読んで勉強したり、過去の特許文献の請求の範囲を写経したりして身につけようとしましたがダメでした。 

 特に、自分の専門外の分野の構造物のクレームドラフティングは必ずといっていいほどやり直しの指示がきて「意味がわからない」「余計な構成をたしすぎている」といったフィードバックがかえってきました。

 

 「と書き」クレーム(構成列挙型)で書くのがよいとか、プリアンブル、ジェプソンの書き方、審査基準でどういう表現を書いたらダメなのか、といったことはわかりますし、クレームと明細書の対応関係やクレームの意義(権利範囲を広く書く)なども理解できます。

 しかし、発明品を詳しく書くと、構成要素を足し過ぎていると言われ、発明品を概念化すると意味不明と言われる。

 悩みの原因は、発明の技術のポイントをうまく文章で表現できていない点にあります。

 

 「技術力不足であり、私は弁理士に向いていないのか。それとも明細書には書き方のコツがあり、それを知らないのか。」

 筆者は、その後、明細書の書き方を本格的に学びたいと考え、別の特許事務所へ入職し、そこの熟練の所長弁理士の方から細部まで徹底的に特許明細書の書き方を叩き込まれました。

 

 そこで1年ちょいほど特許明細書の作成実務を積み、なるほど特許明細書とはこういう風に書くのかと学びました。

 そこから筆者は、基礎を積み上げ、特許明細書を何百件も書き続け「要領」「速く書くコツ」を身につけ今に至ります。

 筆者は、これまでに化学材料をベースとして特許明細書の作成実務を積んできましたが、構造物について数多く特許明細書を書いています。

 あなたの専門分野がどういうものであれ、構造物の特許明細書を書けるようになることは今後弁理士として活躍する上で決して損ではありません。

 そこで本内容は、「折り畳み椅子」を発明の事例として、構造物のクレームの書き方のコツを解説します。

 

 本内容は、初学者でも簡単にわかりやすいように難しい表現はなるべく使わず、さらにあなたが実際に本内容で学んだことを実務で再現できるようにマニュアル化しています。

 このため、本内容のマニュアルを理解し、マニュアルに沿って、あとは実務を積んでいけば、構造物の特許明細書の書き方を理解できるようになるでしょう。

 本内容は、特許明細書のうち、クレームの書き方を解説していますが、明細書の書き方も本ブログにて追加する予定です。

 

 ただし、申し訳ありません。

 本内容は、特許のクレームの書き方を0から教える構成にはなっていません。構成列挙型とかプリアンブルとか書き方まで説明するととても膨大となります。

 このため、本内容は、構成列挙型クレームとかプリアンブルクレームといったクレームの構成の書き方は習得しており、かつ審査基準を一通り理解しているけれど、技術をうまく文章に落としこめない方に向けての内容となっています。

 

 また、本内容は、具体的な事例に即して、解説したほうがわかりやすいと思うので、発明品を以下の「折り畳み椅子」とし、従来技術として特許文献Aに床几」が開示され、特許文献Bに「背もたれ椅子」が開示されていることを想定して話をすすめます。

 本内容があなたの今後にご参考になれば幸いです。

1.特許請求の範囲の書き方の流れ

特許請求の範囲(クレーム)の作成は以下のようにすすめます。

1.対比表の作成

①発明品の構成要素を抽出

②先行品との比較検討

2.メインクレームの決定

3.サブクレームの決定

以下、この流れに沿って解説していきます。

対比表について聞いたことがある方や聞いことない方もいると思いますが、まずは対比表の書き方を覚えていきましょう。

2.対比表の書き方

 対比表の書き方を覚えると、発明と先行技術との差異を見出しやすくなり、発明のポイントが理解できるだけでなく、メインクレームでの「構成要素の足し過ぎ」を避けることができます。

初学者の方はぜひ覚えておいて損はないでしょう。

対比表の手順は、①発明品の構成要素の抽出、②先行品との比較検討ですすめます。

まずは、発明品から構成要素を抽出してみましょう。

2.1.発明品の構成要素の抽出

まずは発明品から構成要素を抽出します。

発明品は必ず2つ以上の構成要素を含みます。うまく構成要素を抽出することがクレームをうまく表現するコツです。

構成要素を抽出するコツは、「発明品のそれぞれの部分の役割を考えること」です。

 

ここで、上の折り畳み椅子の場合、構成要素はいくつあるでしょうか。

一見すると、使用者が着座するという役割をもつ座部と、この座部を安定に支持するという役割をもつ脚部と、使用しているときに使用者の背に当接する背もたれ部の3つだけに思えます。

しかし、上の図のとおり、折り畳み椅子は、座部をくるっと回動させたとき(赤い矢印)に、所定の位置で回動を止める部材(図の赤い部分)があることがわかります。

 この赤い部分は棒状の直線部材であり、一見すると脚部の一部のようにも見れますが、ストッパーのような役割をしており、使用していないときは折り畳み椅子を板状の形状とし、使用しているときは本来の椅子の形態とすることを可能にさせます。

そうすると、上の折り畳み椅子の構成要素は、座部と、脚部と、背もたれ部と、ストッパー部の4つから構成されていることがわかります(なお、この折り畳み椅子は、さらに見ていくと座部を特定の方向にスライドするように回動させる役割をもつガイド部もありますが、ここまで話すと説明が複雑になるので省略します。)

このように、あなたが発明品を見て、構成要素を抽出していくときは、この部分はどういう役割をもっているのか注意深く観察することが重要です。

日頃、日常品にふれるときに、このもののこの部分は「どういう役割をもっているのだろう」と観察する癖をつけていくとクレームドラフティングも上達します。

ではここまでを対比表にいれておきます。

発明(折り畳み椅子) 特許文献A(床几) 特許文献B背もたれ椅子)
座部材(着座)
脚部材(座部材を支持)
背もたれ部材(使用時に背を当接)
ストッパー部材(座部材の回動を特定の位置で阻止)

ここでさらに、発明の特徴を深堀していきます。

上の写真のとおり、発明品の折り畳み椅子は、ストッパー部材を含む以外に、以下の特徴を備えます。

①座部と脚部とが連結しており、その連結点を中心に座部が回動できること

②脚部は二本の脚で構成されており、一方の足と他方の脚が連結しており、その連結点を中心に互いの脚が回動できること

折り畳み椅子は、①と②の特徴をさらに含むことにより、使用しないときは板状の形状となり、使用するときは椅子の形態とすることができます。

上の写真の折り畳み椅子以外の椅子でも、ストッパー部材・①・②は必須であることがわかります。

※一見上の写真は二本の脚部材が連結していないように見えますが、拡大して見るとねじでしっかりと連結していることがわかります。

 

そこで、上記①と②の特徴も対比表に入れておきます。

ここで、対比表を書くコツは、これらの特徴をそのまま書く(~が・・・である)のではなく、先行技術と比較できるように構成要素として特定することです。

どういうことかというと、例えば、①の特徴の場合、「連結点」が「座部材」の構成要素となるように特定します。

ただし、「連結点」は①と②の2つあるので識別できるように一方を「座部連結部」、他方を「脚部連結部」と特定します。(好みですが、「点」より「部」としました。)

そして役割も付け加えておきます。

すると、対比表は以下のようになります。

発明(折り畳み椅子) 先行技術(床几) 先行技術(背もたれ椅子)
座部材(着座)

 座部連結部(座部材と脚部材(一方の脚部)を連結。座部連結部を中心に座部材を回動させる)

脚部材(座部材を支持)

 一方の脚部

 他方の脚部

脚部連結部(一対の脚部を連結。脚部連結部を中心に互いの脚部を回動させる)

背もたれ部材(背を当接)
ストッパー部材(座部材の回動を特定の位置で阻止)

赤字が追記部分です。脚部材は、一方の脚部と他方の脚部とに分けました。

ここで、「形状」「位置(座部材と脚部材がどこで連結しているか)」を特定することも考えられますが、このような特定を考えすぎると泥沼にはまりやすいです。

「形状」「位置」など細部を検討していると、権利範囲を限定しすぎなクレームとなったり、その細部だけ考えて上位概念化した表現は意味不明なものとなりやすいです。

そもそもなぜその形状でないといけないのか、なぜその位置でないといけないのか、「まずは」「役割」を考えることが重要です。

「役割」を考える癖をつけば、発明品の技術的思想を文章で表現しても意味不明になることを避けられます。

また、上のように、大きな要素と小さな要素があるときに小さな要素については字下げすると見やすくなるのでこのような癖をつけておくことをおすすめします。

以上、発明品の構成要素の抽出について解説しましたが理解できたでしょうか。

これで対比表の前半部分は終了ですので後半部分も見ていきましょう。

2.2.先行品との比較検討

では次に先行品と比較していきます。

先ほど対比表に記入した構成要素をそれぞれの先行品が含んでいるかどうかチェックします。

ここで、特許文献Aの「床几(しょうぎ)」について、知らない方もいると思うので補足しておきます。

「床几」とは、折り畳み式の腰かけであり、互いに交差する一対の脚部と脚部に指示された革製の座部で構成されています。

では対比表に以下のようにチェックしていきましょう。

発明(折り畳み椅子) 先行技術(床几) 先行技術(背もたれ椅子)
座部材(着座)

 座部連結部(座部材と脚部材(一方の脚部)を連結。座部連結部を中心に座部材を回動させる)

 

 〇

脚部材(座部材を支持)

 一方の脚部

 他方の脚部

脚部連結部(一対の脚部を連結。脚部連結部を中心に互いの脚部を回動させる)

背もたれ部材(背を当接)
ストッパー部材(座部材の回動を特定の位置で阻止)

 ブログの性質上、上の対比表に書き過ぎるとレイアウトが崩れるので「〇」と「✕」のみにとどめましたが、メモ書きでいいのでどういう点で相違するのかまで書いておきましょう。

 あとで見直した時に整理しやすいためです。

まず床几について、座部を構成する革は一対の脚部材にしっかりと固定されており、回動可能ではありません。

また、床几は柔軟性のある革を採用することで脚部を折りたたんでも、折り畳みに革が追随して板状の形態とすることができます。

このため、発明品のようなストッパー部材は含みません。

また、背もたれ椅子は床几と異なり、背もたれ部材を含みますが、座部も脚部も回動可能ではありませんし、ストッパー部材も含みません。

このように、発明品の構成要素と比較しながら先行品を比較検討すると、発明品の特徴がより明確となります。

この場合、特許文献Aと特許文献Bはいずれもストッパー部材は含まないからストッパー部材を必須とすることで、特許文献Aと特許文献Bに対し、少なくとも新規性は出ることがわかります。

そして、背もたれ部材をメインクレームで特定しなくても(ストッパー部材を特定することにより)特許文献Aと特許文献Bに対し、差異を明確にできることがわかります。

 

なお、この例では、ストッパー部材をメインクレームに含めばOKであり、比較的簡単ですが、実際には先行品に発明品と近いものがでてきるケースもあります。

例えば、さきほど変形例として紹介したものが先行品だとしたらどうしますか。

このとき、さらに構成要素の特徴(形状・位置関係など)を限定して差別化する必要があります。

このときも上のように対比表を書きながら差異を明確にしていくのですが、このような複雑なケースであればあるほど、対比表を作成すれば整理しやすくなり、作成することの意味合いが強くなります。

以上、対比表の作成について解説しましたが理解できたでしょうか。

もし分からなかったらもう一度確認するか、筆者に質問してもらってもかまいません。

実は対比表さえ作成すれば、ほぼメインクレームはできあがったものです。

え?そうなのと思うかもしれませんが本当です。理由を以下に見ていきましょう。

3.メインクレームの作り方

発明(折り畳み椅子) 先行技術(床几) 先行技術(背もたれ椅子)
座部材(着座)

 座部連結部(座部材と脚部材(一方の脚部)を連結。座部連結部を中心に座部材を回動させる)

 

 〇

脚部材(座部材を支持)

 一方の脚部

 他方の脚部

脚部連結部(一対の脚部を連結。脚部連結部を中心に互いの脚部を回動させる)

背もたれ部材(背を当接)
ストッパー部材(座部材の回動を特定の位置で阻止)

対比表を作成すれば、ほぼメインクレームはできあがりも同然です。

なぜか。理由は、先行品の中で「✕」である構成要素を含めば新規性を確保できるからです。

上の例でいうと、「ストッパー部材」をメインクレームで特定すれば、少なくとも特許文献AとBに対し新規性はあります。

また、このストッパー部材というのは、単なる設計事項の構成ではなく、発明品の作用効果(使用しないときは折りたたむことにより収納性と持ち運び性に優れること)を達成するために必須です。

このため、このストッパー部材とさらに発明品の作用効果を達成するために必須の構成要素を組み合わせれば、メインクレームはできあがります。

上の例でいうと、青字のついた構成要素をメインクレームでつなぎ合わせればOKです。

このように、対比表を作成すれば、おのずとメインクレームのパーツが決まります。あとはこれらのパーツをつなぎあわせるだけなので、対比表を作成すればほぼメインクレームはできあがりです。

ここで、補足しておくと実は座部連結部を必須としなくても発明品の作用効果を達成することは可能です(座部と脚部が連結しておらず着脱可能の形態。下図参考)。

ただし、このような形態は果たして、お客さんが権利範囲に含めたいのか微妙です。

お客さんが想定していないものまで強引に含めたりすると、特許性(進歩性)によくない結果も出ますし、クレームの表現もあいまいなものとなり、かえって不評を買うことになるおそれもでます

そこで、もしこういう形態を思いついたなら、「こういう形態も考えましたが、確実に特許性を出すためにあえて外しています。もしこのような形態も含めることをご希望の場合、ご指示ください」といった感じで一言コメントしておきましょう。これにより、お客さんからはよく検討していただいているという印象も受けやすいです。

では、あとは上のパーツをつなぎあわせてクレームを表現するのですが、表現にコツがあります。

以下にそのコツをお話しします。

3.1.クレームの表現のコツ

ではクレームの表現のコツをお話しします。

コツは5つあります。

1.「と書き」と「プリアンブル」を組み合わせる

2.構成要素はまず「ベース」を書き、この「ベース」に近いものから順番にかいていく

3.各構成要素は他の構成要素を引用して表現する

4.構成要素の特定は「役割」「形状」「位置」「材質」のどれかがほとんど

5.「形状」で特定することが難しいなら「役割」で特定する

順番に解説します。

1.「と書き」と「プリアンブル」の組み合わせ

「と書き」とは「~と、~と、を含み、・・・である〇〇」といった構成列挙型クレームの書き方であり、ご存知だと思います。

重要なのは、「プリアンブル」を組み合わせることです。

つまり、「~であって、以下「と書き」」のようにクレームを書いていきます。

なぜプリアンブルを書くことがよいかというと、単純に先行品と発明品の特徴の差異が明確になるだけでなく、構成要素の説明を冗長に書かなくてすむからです。

例えば、上の折り畳み椅子の例の場合、「座部材と脚部材とを含む椅子であって、~」と書くと、わざわざ座部材が「使用者が着座する」こと、脚部材が「座部材を支持する」ことを特定する必要がありません。

従来技術をあえて明言することで、こういうわかりきったことを省略できコンパクトなクレームを書くことができます。

また発明品が外国(欧州)に出願することを想定した場合、欧州特許出願ではクレームに二部形式が要求されることも補足しておきます(Rule43(1)EPC)。

2.構成要素はまず「ベース」を書き、この「ベース」に近いものから順番にかいていく

構成要素が複数ある場合、構成要素の順序に決まりはありません。どこから書いてもOKです。

しかし、順序によっては、書くべき構成要素を書いていないといった漏れが生じたり、書きにくい場合があります。

これに対し、まず発明品のベースとなるものをまず書いて、このベースを出発点として位置的に近いものから順番に書いていくと漏れが出ませんし、書きやすいです。

例えば、積層体は、下から上に向かって構成要素を特定していくと書きやすいです。

上の例でいう「椅子」の場合、ベースは座部材ですから、まず座部材を書いて、それに近い脚部材、ストッパー部材という順序で書いていきます。

これは構成要素の数が増えれば増えるほどおさえておきたいコツです。

3.各構成要素は他の構成要素を引用して表現する

各構成要素は、他の構成要素を引用して表現しましょう。

言い換えると、他の構成要素を引用しない「浮いた構成要素」を書かないようにしましょう。 

浮いた構成要素を書いている場合、クレームの表現が不明瞭である可能性がとても高いです。

よく、クレームの表現が明確であるかどうかの判断として、クレームの表現をもとに発明の絵が描けるかどうかというのがあります。

浮いた構成要素を書いた場合、絵は描けません。つまり不明瞭ということです。

ここで、他の構成要素を引用して表現することの一例として、家をクレームした場合、

「床部と、床部の上方に配置した柱部と、柱部により支持された天井部と、を含む家。」となります。

ベースとなる床部以外の構成要素(柱部と天井部)はいずれも他の構成要素を引用していることがわかりますし、上のクレームは絵を描くことができることもわかります。

4.構成要素の特定は「役割」「形状」「位置」「材質」のどれかがほとんど

構成要素をクレームで特定する場合、「役割」「形状」「位置」「材質」のほぼどれかです。

特定の仕方はたくさんあるような印象を受けますが、実はこれら4つくらいしかありません。

5.「位置」「形状」で特定することが難しいなら「役割」で特定する

書きやすさは、「役割」≧「材質」>>「位置」「形状」の順番であり、権利範囲の広さは「役割」>「位置」「形状」(材質)の順番です。

形状で特定する場合、どこから見た時の形状かなど特定する必要がでてきたり、形状で発明品と他の変形例を上位概念化することはとても難しいです。

構成要素が先行品にないのであれば、広くて書きやすい「役割」を特定しましょう。

1.~5.の事例のあてはめ

では、対比表で作成したパーツを、1.~5.のコツにあてはめてクレームを書いていきます。

座部材(着座)

 座部連結部(座部材と脚部材(一方の脚部)を連結。座部連結部を中心に座部材を回動させる)

脚部材(座部材を支持)

 一方の脚部

 他方の脚部

 脚部連結部(一対の脚部を連結。脚部連結部を中心に互いの脚部を回動させる)

ストッパー部材(座部材の回動を特定の位置で阻止)

できあがったものは以下のようになります。

【請求項1】

座部材と、二本の脚部を有する脚部材を含む椅子であって、

前記座部材が、前記二本の脚部の一方と連結する座部連結部を含み、かつ、前記座部連結部を中心に回動可能であり、

前記脚部材が、前記二本の脚部を連結する脚部連結部を含み、かつ、前記二本の脚部が、前記脚部連結部を中心に回動可能であり、

前記椅子が、使用者が前記座部材に着座できるように、前記座部材の回動を制止するストッパー部材を含む、椅子。

【請求項1】(説明)

座部材と、二本の脚部を有する脚部材を含む椅子であって、(コツ1.プリアンブルで表現して簡素化)

前記座部材が、前記二本の脚部の一方と連結する座部連結部を含み、かつ、前記座部連結部を中心に回動可能であり、

前記脚部材が、前記二本の脚部を連結する脚部連結部を含み、かつ、前記二本の脚部が、前記脚部連結部を中心に回動可能であり、

前記椅子が、使用者が前記座部材に着座できるように、(コツ4.+5.役割で書こう)前記座部材の回動を制止するストッパー部材(コツ3.各構成要素は、他の構成要素を引用)を含む、椅子。

※、コツ2.座部材をベースとして、近いものから順番に構成要素を書く。

このクレームが必ず正しいわけではありません。もっとも上手く表現も可能でしょう。

ただし、不要に範囲を狭めることもなく、表現も明確です(脚部を有する脚部材と多少くどいですが・・・)。

いずれも全てのコツをふまえていることがわかります。

ここでポイントとして、「ストッパー部材」に「使用者が座部材に着座できるように、」と役割をさらにつけたしていることに注目してください。

実はストッパー部材の特定において、単に「座部材の回動を制止する」という表現だけだと、例えば、上の写真でいうと赤丸のあたりにストッパー部材が配置された形態も含んでしまいますが、この場合、椅子という機能を果たせません。

では、ストッパー部材の位置を特定する必要があるのか、と思われるかもしれませんが、これはどこからどこまで範囲を規定するかとても難しいものです。

そこで、そもそもこのストッパー部材の役割は何なのかを考えます。使用者が座部に着座するためのものです。そこで、上のように「役割」を特定して、好ましくない形態を排除しています。

このように、「位置」とか「形状」を深く考えると、いつまでたってもうまくいきません。そもそも「役割」は何かを考えましょう。

また、補足として、上のクレームの表現で絵が描けるかどうかですが、以下のようにして描くことができることも補足しておきます。

では続いてサブクレームを書いていきましょう。

サブクレームの意義は実は2つしかありません。以下に解説します。

※今回折り畳み椅子は製造方法に特徴もなく、さらに椅子なのでこれを含む大きなカテゴリーもないことから、「椅子」のみのクレームにとどめていることをご留意ください。

4.サブクレームの作り方

 以下ではサブクレームの作り方を解説します。

 まずサブクレームの意義を解説します。実は以下の2つしかありません。

①進歩性の保険

②明確性の保険

逆にこれ以外の目的でサブクレームを書くのはほぼないです。

①については、サブクレーム以降は、先行品とどんどん差別化をはかります。

先行品と比較して、特徴の差別化が出やすいところを特定していく、という点を意識してください。

必ずしも、先行品が審査で引用するとは限りませんが、先行品が引用される可能性は高いですし、お客さんが提示してきたものであれば、尊重しましょう。

②については、明確性要件違反を通知された時の保険です。

クレームは明確であるべきですが、明確性要件の判断はあくまで審査官の心証によるものが多く、不適切と指摘されるおそれもあります

明確性要件違反の保険は明細書でカバーすることも考えられますが、不明確という理由で新規性・進歩性の判断をしてもらえないおそれもあります。サブクレームで特定することも重要です。

以下では、折り畳み椅子の事例を特に①の進歩性の保険に当てはめて考えていきます。

ここでサブクレームの構成は、内的付加と外的付加、この2つしかありません。

そこで、まず、メインクレームで特定した構成をさらに特定できないか(内的付加)検討し、次に他の構成要素を特定できないか検討していきます。

4.1.座部材

まずは座部材です。

発明品の座部材の材質は木材です。

一方、床几の材質は革です。

そうすると、材質を特定することで特許文献Aとの差異を明確にできるだろうと考えられます。

では、ここで木材に特定すべきでしょうか。

革は柔らかい材質であり、柔らかいから、脚部の回動に追随して床几は折りたたむことができるわけです。

一方、発明品は木材以外の堅い材質でもよく、堅い材質であることで椅子を頑丈なもの(耐久性の高いもの)とすることができます。

そうすると、床几の技術的思想と差別化する上で、「座部材の材質が堅い材質である」ことの特定は有用なサブクレーム候補となりえます。

ここでは、堅い材質とすると比較基準が不明と指摘されるので「剛性部材」と表現するのがよいでしょう。

4.2.脚部材

 

次に脚部材を見ていきます。

脚部材を見ると一方が他方よりも長く伸びていることがわかります。

ではなぜ長く伸びているのか。

それは背もたれ部材を取り付けるためです。

背もたれ部材自体は、特許文献Bの背もたれ椅子に開示されています。

しかし、床几には開示されておらず、床几の脚部を上に伸ばして背もたれ部材を取り付けるという発想は床几から思いつかないはずです。

例え、特許文献AとBを組み合わせても、脚部材の一方を長く伸ばして背もたれ部材を取り付けるという発想はでてきません

そうすると、脚部材の一方が他方より長く延びていることもサブクレームの有用な候補となりえます。

4.3.ストッパー部材

次にストッパー部材(上の写真の赤い部分)を見ていきます。

発明品の折り畳み椅子では、ストッパー部材は、他方の脚部(上の写真の黄色い部分)の長手方向の2本の棒状部材を架橋するように配置されています。

ここで、ストッパー部材が他方の脚部側にこのように配置されることのメリットはあるでしょうか。

このように配置されると、ストッパー部材はさらに脚部(特に2本の棒状部材)を頑丈に固定するという役割も備えることになります。

ストッパー自体、特許文献AとBに開示がないので更に特定することは不要に思えますが、審査官はストッパー部材を含む椅子を引用する可能性もあります。

そこで、ストッパー部材が脚部に架橋するように配置されていることも有用なサブクレーム候補となります。

4.4.その他の構成要素は?

さらに折り畳み椅子を観察していると、上の写真のように他方の脚部にスリットのようなものが形成されていることがわかります。

このスリットの役割は、座部材が回動する際に、座部材が、他方の脚部の長手方向に沿ってスライドできるようにすることです。

これにより、座部材は安定に回動でき、壊れにくい(耐久性に優れる)ものとすることができます。

そこで、このようなガイド機構もサブクレームの有用な候補となります。

4.5.サブクレームのまとめ

では、ここで以上の候補をまとめます。

・「座部材の材質が堅い材質である」

・「脚部材の一方が他方より長く延びており、背もたれ部材を取り付けることができる」

・「ストッパー部材が他方の脚部に架橋するように配置されている」

・「ガイド機構」

ここで候補の順番はどうすべきでしょうか。

順番については候補が他の候補がないと達成できないものがあれば、それらについて順番は決めるべきですが、今回は該当しないのでどこから始めてもOKです。

簡単なところから書いてみましょう。

サブクレームの表現も上述した表現のコツを使えます。

1.「と書き」と「プリアンブル」を組み合わせる

2.構成要素はまず「ベース」を書き、この「ベース」に近いものから順番にかいていく

3.各構成要素は他の構成要素を引用して表現する

4.構成要素の特定は「役割」「形状」「位置」「材質」のどれかがほとんど

5.「形状」で特定することが難しいなら「役割」で特定する

サブクレームを書いてみる

筆者は以下のように表現しました。

【請求項2】

前記座部材が剛性部材である、請求項1記載の椅子。

※「剛性」という表現は曖昧なので、保険に明細書中で具体例を書いておきましょう。

【請求項3】

前記脚部材の一方が、使用時において、前記座部材の水平面の高さよりも上方部に背もたれ取り付け部を含む、請求項1又は2記載の椅子。

※コツ「5.」。「背もたれ取り付け部」と構成要素に役割を(強引に?)書いています。ただし、単に背もたれ取り付け部を含むだけだとうまく先行品と差別化できていないので、使用状態のときの位置も特定しています。

【請求項4】(あってもなくても可)

前記椅子が、前記背もたれ取り付け部に取り付けらた背もたれ部材を含む、請求項3記載の椅子。

【請求項5】

前記ストッパー部材が、前記脚部材の他方の脚部を支持する支持棒である、請求項1~4のいずれか1項に記載の椅子。

※コツ「5.」後述します。

【請求項6】

前記脚部材の他方の脚部が、前記座部材を前記他方の長手方向にスライドさせて回動させるガイド部を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の椅子。

※コツ「5.」。スリットが形成されて・・・など形状を特定すると範囲が狭くなりますし、書きにくいので役割で特定します。ここで、ガイド部は、独立した構成要素とせずに、他方の脚部の構成要素と表現しました。

請求項5について補足します。

おそらくストッパー部材の特定は上の写真にひきつられて、他方の脚部が2本の棒状の直線部材とこの直線部材をつなぐ下の部材も特定しないといけないのかなと思ったかもしれません。

しかし、このように書くと、「位置」「形状」の特定という泥沼にはまります。

コツ5.を振り返りましょう。そもそもストッパー部材の役割は?役割を特定するのに、他方の脚部の細部の特定は必要なのか?

ここでのストッパー部材は、座部材の回動を制止することと、2本の脚部を架橋することで安定にすることです。

後者の役割をクレームで表現すればよいことになります。

ただし「架橋」という表現にしばられると「脚部」の細部を特定することになります。

そこで架橋ではなく、役割、具体的には安定を「支持」と言い換え、他方の脚部を支持するとすればわざわざ「脚部」の細部を特定しなくてもよいのではないでしょうか。

上のサブクレームの表現はおそらくもっといいのができると思いますが、こういう考え方でサブクレームを表現します。

重要なのは「そもそも役割は何か」です。

特許のクレームの書き方マニュアル

以上、特許のクレームの書き方マニュアルを解説しました。

本内容があなたにお役に立てれば幸いです。

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