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戦後日本の知財戦略史を現役弁理士が分かりやすく解説します

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 僕は、とある法律事務所で働く弁理士(ツィッター@mayaaaaasama)🙈

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 今回は「戦後日本の特許戦略史を現役弁理士が分かりやすく解説します」というタイトルにてお話しします。

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 日本の高度経済成長を支えた実用新案制度

第2次世界大戦で敗戦した日本はボロボロでした。

 しかし敗戦してから10年後に年平均10%以上の経済成長を達成します。

 これが高度経済成長期です。これにより日本のGNPは世界第2位となり、経済大国に上り詰めました。

 この要因は何でしょうか。

 一般には、当時若者にあふれた日本の安い労働力とか、日本の勤勉性とからいわれます。

 しかしそれらよりも重要な要因があるのです。

 それは当時アメリカがアンチパテント政策をとっていたことと実用新案制度があったからです。

 アメリカでは、1930年ごろから1970年後半までの50年以上の間に特許をはじめとする企業の経済的独占を抑制する「アンチパテント」政策をとっていました。

 このきっかけは世界大恐慌で、米政府は大恐慌の原因を大企業による市場の独占的支配が中小企業の活動を抑制し、それが消費者の活動に悪影響を与えたと考えました。

 そして、米政府は独占禁止法を発動して特許を独占的に使うことを許さないようにしました。これが1970年後半まで続いたのです。

 丁度高度経済成長期と重なります。

 この恩恵を最も受けたのは日本でした。

 米国がアンチパテントの時代に、日本企業は比較的安いライセンス料で米国企業の技術をフルに利用してモノづくりに励むことができました。

 こうして日本企業は欧米企業並みの製品を安く作り上げることができました。

 ただし、当時の日本企業は技術収支が大幅な赤字でした。

 というのも、比較的安いとはいえ、日本企業はアメリカの技術を利用するためにライセンス料を支払わないといけなかったからです。

 そこで、日本企業は、米国企業と同じように特許をとって米国企業の特許に対抗しようとしました。

 具体的には、日本企業も特許をとれば、その特許を使いたい米国企業はクロスライセンス交渉をせざるをえません。

 そうすると、日本企業はリーズナブルに米国企業の特許を使うことができます。

 そこで、米国技術の特許を改良したものを大量に特許出願しました。

 しかし、特許をとるためには審査が必要であり、ハードルが高いです。

 改良とはいえたいしたことがないものも大量に含まれており当時は特許をとるためのハードルが高いものでした。

 そこで、日本企業は特許制度だけでなく、実用新案制度も利用しました。

 実用新案制度は特許よりもハードルが低く、無審査でも権利をとることができます。

 今ではほとんど実用新案制度は利用されていませんが、当時の実用新案制度の利用は凄まじいものでした。

特許件数5実用新案の件数の推移

出典:「特許研究 PATENT STUDIES No.58 2014/9」

 上図のとおり、1980年ぐらいまでは、実用新案が特許を上回っていました。

 こうして日本企業は大量に権利をとり、米国企業とクロスライセンスにもちこみ、米国の基本特許をリーズナブルに手に入れることができました。

 日本は安価な労働力に加えて、こうした大量の知的財産権(特許権と実用新案権)を武器に、欧米のシェアを次々と奪っていきました。

 日本が経済大国となった背景には安価な労働力だけでなく、アメリカのアンチパテント政策と簡単に権利をとれる実用新案制度の利用があったのです。

 特許出願件数アズナンバーワンの時代

 ジャパンアズナンバーワンと言われた1980年代にも日本企業は大量に特許出願をしました。

 この頃には日本の特許出願件数は世界でダントツのナンバーワンになるまで上り詰めました。

 ただし、欧米とは異なり、日本企業の特許出願は国内中心でした。

 欧米は海外への特許出願を重視していたものの、日本は国内だけに特許出願をしていた傾向にありました。

 なぜ、当時の日本企業は国内中心で特許出願をしていたのでしょうか。

 この頃の日本企業(特に大手電機メーカー)は、同業他社の特許とクロスライセンスにもちこむために大量に特許出願をしていました。

 同業他社が生み出した特許をクロスライセンスすると、その特許を使えることができます。

 そうすると、製品に余計な製造や販売コストがかからなくてすみ、製品を安価に大量生産することができます。

 こうした理由もあり、日本企業は大量に特許出願をして、自国の競合他社と技術を仲良く使えるようにしていました。

 こうした特許倍々運動により、日本企業だけでなく当時の弁理士も相当儲かったと言われています。

 知財立国を立ち上げたときにはすでに知財貧国へ

2002年に小泉純一郎首相は、「知的財産立国」を立ち上げました。

 当時、小泉純一郎首相は「研究活動や創作活動の成果を知的財産として戦略的に保護・活用し、我が国産業の国際競争力を強化することを国家の目標とします。」と演説しました。

 この発言は一見聞いてみると当たり前のように思われます。

 しかし、当時はこの当たり前のことがなされていなかったのです。

 知財立国をたちあげたときにはすでに日本は知財貧国になっていたのです。

 つまり、この演説を言い返せば、日本企業は、知財を戦略的に活用していなかったのです。

 そして、日本企業はむしろ大量に特許出願をすることにより技術が流出してしまいました。

 その要因は、1990年半ばのインターネットの普及と、韓国、台湾、中国の新興国の台頭にあります。

 特許出願は特許という独占権を手に入れる代償として特許の内容が公開されてしまいます。

 公開といっても昔は日本の特許庁でしか見ることができませんでした。 

 しかしインターネットの普及に伴い、特許庁はウェブサイトを通じ特許の内容を公開してしまいました。

 全国に公開されるので、当時の新興国であった韓国企業、台湾企業、中国企業は公開された日本企業の特許技術を模倣しました。

 これらの新興国は特別な対価を払わずとも簡単に日本企業の特許技術を模倣できました。

 なぜなら、日本企業は国内中心で特許出願をしており、これらの新興国へ出願はしていません。

 日本で特許を取った場合には、特許権の効力は日本のみに及びます。新興国には及びません。

 日本企業は特許出願をする際に、国内だけでなくこうした新興国へも特許出願するべきでした。

 一方、欧米企業は国内よりも外国への出願を重要としており、こうした新興国への特許出願をしていました。

 そして、新興国の企業は、急速に日本の製造業をキャッチアップしました。今ではシャープが台湾企業の傘下に入るなど形勢がもはや逆転しています。

 

 こうして日本企業は、欧米先進企業を追い続けて、追い越したと思ったら、今度は台湾、韓国、中国といった新興国へ追撃を受けました。

 日本企業は知財をうまく活用せず、知財は国際競争力をつけるために役に立たなかったどころか新興国の勢いを助長してしまったのです。

 特許神話の崩壊

 日本企業はこれまでの特許の大量出願を見直すことになりました。特許神話の崩壊です。

 むやみやたらに特許出願を大量にすることはなくなりました。

特許出願件数の推移
出典:特許庁ステータスレポート2019「第1章 我が国の知財動向」

 上のグラフの通り、国内の特許出願件数は年々減少傾向にあります。おそらく今後も減少していくでしょう。

 

PCT出願件数の推移
出典:特許庁ステータスレポート2019「第1章 我が国の知財動向」

 一方で外国出願(PCT出願)は増加傾向にあります。

 日本企業は今は国内だけに出願というよりも国内も含めて外国へ出願する傾向にあります。

 外国へ出願すると当然コストも半端じゃないので、国内出願の件数をおさえているように読めます。

 弁理士としては美味しくない話ですが、知財を活用するという意味ではまだ健全のように思います。

 今後は知財情報を使って経営課題を解決する時代

昔は、知財と経営は完全に切り離されていました。

 しかし、今は一部の日本企業では知財情報を使って経営課題を解決しようとしています。

 IPランドスケープという言葉を知っていますか。

 これは一言で言うと、特許など公開された知財情報を駆使して、自社や他社のビジネスを分析することです。

 今後この言葉は徐々に普及していくものと予想されます。

 従来では、他社と事業提携やM&Aを検討する場合には他社の知財情報は考慮されませんでした。

 今後は特許データなどの他社の知財情報を踏まえて自社とシナジー(相乗)効果を生み出すものであれば他者と事業提携やM&Aを提案するといったIPランドスケープを利用した経営戦略が行われると想定されます。

 他社の知財情報は特許庁から入手可能ですし、AI技術の進化に伴い分析も高度化されていきます。

 今後は知財は、特許出願して特許をとるといった知財部だけで完結するものではなくなります。

 知財情報を経営戦略に組み込んだ知財・経営一体型に生まれて変わろうとしています。

 もしこれから弁理士を目指そうと思う方は、たんに特許出願のサポートをするだけでなく、知財が経営にどう生かされるのかといったことも勉強していくのが重要と思います。

 この記事は、「IPランドスケープ経営戦略」を参考に作成しました。


IPランドスケープ経営戦略

 本書を読めば現代の知財動向やIPランドスケープについて理解が深まると思いますのでおすすめです。

わたくし士業男子やまも近々特許事務所を立ち上げる予定であり、もし知的財産についてご相談があればぜひご連絡をいただければと思います。

相談は無料です。メールでもテレビ電話でもじかに会ってご相談でもどんな形であれ対応します。

ぜひよろしくお願いします!

また弁理士はこれらの知財のスペシャリストです。

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以上

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