とある士業の知的な日常

弁理士ブロガーです。勉強法、文章術、英語、特許、美容、資格、読書を主に紹介するブログです。何かあればyamatenisanアットマークgmail.comまでお願いします。

AI翻訳導入により特許翻訳業がオワコンである理由

僕は、とある法律事務所で働く弁理士🙈

f:id:mayaaaaasama:20180929194523j:plain

僕は、以前ツィッターで以下のように呟きました。

もう特許翻訳はAIに委ねる時代がきているようです…

僕も仕事上特許翻訳をやってきており、特許翻訳の本を読みながら勉強してきたので残念な話です…

www.mayaaaaasama.com

 そこで、今回はAI翻訳導入により特許翻訳業がオワコンである理由をお話しします。

 

目次です。

AI翻訳導入により特許翻訳業がオワコンである理由

f:id:mayaaaaasama:20190406141917j:plain

 

・機械翻訳は特許翻訳と相性がいいため。

・機械翻訳しやすい環境が整い過ぎているため。

・クライアントは逐語訳以上のものを求めていないため。

 以下、順番に説明していきます。

「機械翻訳が特許翻訳と相性がいいため。」

f:id:mayaaaaasama:20190406153919j:plain

 特許翻訳は機械翻訳とすごく相性がいいです。これについて、僕は以前ツィッターで呟いています。

特許翻訳とは

 まず、特許業界に精通しない方にとって、特許翻訳とは何?というイメージをもたれるかもしれません。特許翻訳とは、特許出願から特許権利化までに至る過程でやりとりされる文書の翻訳をいいます。この文書の主なものとして、特許明細書があります。特許明細書については、過去記事で紹介していますので気になる方はご参考ください。

www.mayaaaaasama.com

なぜ特許翻訳が機械翻訳と相性がいいのか

  特許翻訳がなぜ機械翻訳と相性がいいのかについて説明します。これを分かり易く説明するために、文学の翻訳と対比させながら説明します。文学などの創作性のある文章では、翻訳するためにその文章の意味するところをAIが理解しなければなりません。しかし、そのような文章の意味を理解することはAIは苦手です。そもそも翻訳者もまた、その文学における日本語の表現を、作者の意図を踏まえながら英訳することはとても難しいものです。このため、AIがその文章を翻訳すると、原文に即していない変な翻訳文となりえます。

 これに対し、特許明細書をはじめとするこれらの文書は論理的な文章であり、創作的な文章ではありません。このため、AIが文章の意味を理解しなくても豊富な対訳データをAIに学習させることにより、AIが機械的に翻訳すると、精度の高い翻訳文となりえます。そして、この対訳データは、すでに公開された特許明細書を用いれば豊富にあります。特許明細書というのは独特の英語表現を使うのですがパターンが決まっています。実をいうと、特許翻訳は、パターンが決まっており、過去のものの使いまわしが結構多いのです。このため、このパターンをAIに覚えさせれば、精度の高い翻訳文を作成することができます。

 

 実際に、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は、特許文献の高精度機械翻訳を実現させた研究を行い、機械翻訳技術(NMT)を発達させています。その翻訳精度は著しく向上しているようです。また、AI翻訳を導入している特許事務所も増えつつあります。

 このように、特許翻訳は機械翻訳ととても相性がよく、AI翻訳導入が進んでいます。 

「機械翻訳しやすい環境が整い過ぎているため。」

f:id:mayaaaaasama:20190406154144j:plain
 次に、機械翻訳しやすい環境が整い過ぎていることが理由に挙げられます。これはどういうことかというと、クライアントは、翻訳対象である「特許明細書」の原文(日本語)を英文に翻訳しやすいように書くことを推奨しているということです。特許明細書のマニュアルというものがクライアントごとにあります。このマニュアルに従って、代理人である弁理士、特許技術者は、特許明細書を作成するのですが、このマニュアルのほとんどに、「英文に翻訳しやすいように文章を作成すること」という決まりがあります。そうすると、予め作成された原文の特許明細書は、すでに英文に翻訳しやすい文章で作成されており、特許翻訳者はその文章をそのまま逐語的に訳せばよいのです。つまり、わけのわからない文章になった日本文を、特許翻訳者が分かり易くするために表現をブラシュアップして英訳するという作業が不要です。このため、予め作成された原文の特許明細書は、機械翻訳にかけても十分な英訳に仕上げることが可能となります。Google翻訳にかけてもそれなりの英訳に仕上がることは可能ですので、さらに特許に特化した翻訳エンジンでは現状でも十分な英訳に仕上げることができます。

「特許翻訳は逐語訳であればよくそれ以上の高度なものは求められない」

f:id:mayaaaaasama:20190406152317j:plain

 次に、「特許翻訳は逐語訳であればよい」ことが理由に挙げられます。特許翻訳は、原文を1語1句忠実に翻訳すればそれでOKです。このため、更に1語1句忠実に翻訳したものを更にブラシュアップして英文らしくするための作業が不要であり、機械翻訳で十分に対応することができます。

特許翻訳は逐語訳であればよい理由

 ここで、特許翻訳がなぜ逐語訳であればいいのかその理由を以下にお話しします。その理由は以下の点です。

・逐語訳でも問題とならない

・チェックする側の負担軽減

・予め英訳しやすいような日本語で書かれていることが多い

 まず、逐語訳であっても問題にならないことです。特許翻訳で重要なことは、誤字・脱字がないこと、技術的に誤った表現を用いていないことであり、これさえクリアしていれば逐語訳であっても問題になりません。これまでに、逐語訳であることにより、特許の権利範囲において不利な問題が発生したりしたことは経験上ありませんし、聞いたこともありません。

 次に、チェックする側の負担軽減のためにむしろ逐語訳の方がいいのです。翻訳者により仕上がった原稿を、代理人である弁理士又は特許技術者、出願人である発明者と知財担当者がチェックします。彼らは他にも仕事を抱えており、できるだけ英訳のチェックに時間をかけたくはありません。そして、彼らチェックするものは、上述の通り、「誤字・脱字がないか否か」「技術的に誤った表現を用いていないか否か」です。この作業を行うにあたり、かえって、英文がブラシュアップされて高度なものであると、原文が英文と対応しているかどうかをまず考える作業が必要となり、かえってチェックする時間がかかります。このように、チェックする側の負担軽減のためにむしろ逐語訳がいいのです。

 最後に予め英訳しやすいような日本語で書かれていることが多いことも理由に挙げられます。これは、あたかもこの日本語を忠実に訳してくださいといっているようなものです。特許業界では、翻訳による解釈の疑義が生じないように、翻訳する段階でなく、日本語の書類を作成する段階で英訳しやすいように書かれています。これは逐語訳を想定したものであり、これにかえって英文をブラシュアップするとチェックする側は混乱してしまいます。

 以上のように、特許翻訳は逐語訳でよく、逐語訳であれば機械翻訳しやすいためAI翻訳導入により特許翻訳業の仕事はますます減っていくと思います。

 

特許翻訳業者の進路

f:id:mayaaaaasama:20190327222827j:plain

 以上の通り、AI翻訳導入により特許翻訳業はもはやオワコンと化しており、これから一層仕事の依頼案件の数は減っていくと思います。特許翻訳業者は、売上によって給料が決定されるとこが多いため、仕事が突然なくなることがないにせよ、徐々に給料が減っていくと思います。一方で、別のジャンルの翻訳業へ参入することも考えられますが、その場合、AI翻訳が導入しづらいジャンルは、文系の翻訳業者たちとの仕事の奪い合いとなりえますのでそこへ参入することも難しいように思います。

 そこで特許翻訳業から別の分野で転職を考えるのであれば「特許技術者」をお勧めします。特許技術者であれば、翻訳業で得た、特許明細書の内容を理解する技術が活かされると思いますし、AI翻訳導入にせよ、英語の能力は必要ですから英語の能力も生かされます。また、「特許技術者」は英語が苦手な人が多いですので、その点優位性を確保できます。特許技術者の転職については過去記事でも書いていますのでもしよろしければご参考ください。

www.mayaaaaasama.com

 以上