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現役弁理士が特許明細書における特許請求の範囲(クレーム)の書き方のコツを説明する。

僕は、とある法律事務所で働く士業男子🙈

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今回は、現役の弁理士が、特許明細書における特許請求の範囲(クレーム)の書き方のコツを説明します。

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この記事を読むメリット

特許について何も知らない方であっても、「特許請求の範囲」について理解できる。

実務経験者であっても、「特許請求の範囲」の書き方のコツを理解できる。

 

目次です。

 特許請求の範囲(クレーム)の書き方のコツ

 特許請求の範囲(クレーム)とは

 特許請求の範囲について以前の過去記事について簡単に説明しました。 この記事を読めば特許請求の範囲の概要が理解できると思います。

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 たった1文がビジネスに大きな利益をもたらす

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 上記の記事でも紹介しましたが、特許請求の範囲たった1文で表現されます。発明は、莫大な費用が伴う投資の下、発明者の鋭意検討の積み重ねにより生まれるものです。そして、そのような重みのある発明から特許をとるためには、発明はたった1文で表現されます。この1文が発明の本質を的確に表現できていれば、莫大な利益を得ることが可能です。一方、特許出願すると、発明の内容が公開(公知化)されますので、相当のリスクがあります。そしてこの1文が稚拙なもので特許を取ることができなければせっかく優れた発明をしていても単に公知化しただけであり、莫大な損失を被ってしまいます。この1文で莫大な利益を得るのか、莫大な損失を被るのかが決定されます。

 このため、特許請求の範囲は、発明者でなく、経験豊富な弁理士が作成することが多いです。しかし、特許請求の範囲はたった1文ですが、逆に発明の本質を踏まえてそれをぎゅっと1文に凝縮するのです。このため、相当な技術が必要です。しかし、特許請求の範囲を上手く書けるようになれば、相応の報酬が得られます。また、発明の未来がそれにかかっているわけですから相応のやりがいもあります。

 以下では、そのような特許請求の範囲の書き方について詳しくお話ししていきます。

 特許請求の範囲の書き方のコツ

 それでは特許請求の範囲の書き方のコツを以下の説明図を用いて説明します。

特許請求の範囲の


 特許請求の範囲の基本的な書き方の手順は、上図の説明図の通り、

 ①概念化②作文③スケッチの3つです。特許請求の範囲では、簡潔な構成であることと、意味が明確であることが重要です。

 余計な要素が含まれると、特許を取得しても特許の権利範囲が十分でなく、権利行使を上手く進めることができません。このため、①概念化では、余計な要素を削ぎ落し、簡潔な構成とすることが重要です。

 また、特許請求の範囲の記載が意味不明であると、特許性を判断する審査官に不備があると指摘されますし、仮に特許を取得してもその意味するところが十分でなく、権利行使を上手く進めることができません。このため、②作文では、意味を明確になるように作文することが重要です。

 ここで、その意味が明確であるか確認するために、③スケッチをします。②作文から③概念に相当する絵が実際に書けるかどうかを確認します。もしあやふやなものであれば、②作文を推敲し、また③スケッチします。②作文③スケッチを繰り返して質の高い文を仕上げます。

 上記の通り、特許請求の範囲を書くための重要なことは主に2点です。

 ・余計な要素を書かない⇔要素数を少なくする

 ・意味不明な文を書かない⇔意味が明確な文を書く

椅子の例

 それでは具体的に椅子を例にして書き方を説明します。

椅子の具体例

 従来の椅子には、上図のように使用者が座るための座部材しかなかったと仮定します。これに対し、発明者は、上図のように座部材の後部に板部材を起立させました。そうすると、発明者は、使用者がその板部材に背を当接させることにより快適に座ることができることを見出しました。

 この場合、発明品は以下のように表現することが考えられます。

[特許請求の範囲]

 座部材と、座部材の後部に起立させた板部材と、座部材を支持する脚部材とを備える椅子。

 この場合、「座部材」「板部材」「脚部材」の3つの要素を備えている発明に特許が与えられます。そして、他者は、この3つの要素を備えた椅子を製造したり、販売したり等をすることができません。製造したり、販売したりしたい場合には、特許権者に実施料を支払う必要があります。

 ①概念化

 発明品そのものを作文して特許請求の範囲とすると、その範囲はとても狭いものとなります。以下の図のように発明品は「点」に過ぎないものですし、その「点」から範囲を広げる必要があります。そこで、範囲を広げるためには発明を概念化してみます。

概念化の説明図

 イメージとしては上図のような感じとなります。発明品という1点に対し、概念化により範囲を広げます。円形内に含まれるものが特許請求の範囲となります。

 概念化のコツは、発明を構成する要素のそれぞれの役割と、発明の効果を分析をすることです。それぞれの役割は、まずは発明の効果を抽出した上で分析してみます。上図の椅子では以下のようにまとめることができます。

 発明の効果…使用者が、座部材に着座した時に、板部材に背を当接させることにより快適に座ることができる。

 このように効果を抽出すると、座部材、板部材、脚部材の役割は以下のようになります。

 座部材…使用者が着座するための部材。

 板部材…使用者の背を当接するための当接部材。

 脚部材…座部材を支持するための部材。

 このように見ていくと、板部材は、必ずしも「座部材の後部に起立させる」必要はありませんし、「板状の形状」である必要もありません。

 例えば、上図の左のように、円形上の座部材の中央に柱が形成されたような形態では、「座部材の後部に起立させ」ていませんし、「板状」の形状でもありません。上図の右のように、座部材の後部に二本のパイプが接続し、この二本のパイプに板部材が取り付けられた形態では、「板部材」を座部材の後部に起立されていません。もし、上記のような特許請求の範囲では、これらの形態は含まれないことになります。

 また、発明を分析すると、重要な要素は、「座部材」と「当接部材」です。脚部材は必ずしも必要でしょうか。座椅子を考慮すると必ずしも脚部材は必要ではありません。そうすると、脚部材は特許請求の範囲から外してよさそうです。

 このようにして概念化すると発明のイメージは以下のようなものとなります。

概念化のイメージ

 以上をまとめます。

 概念化のコツは、発明を構成する要素のそれぞれの役割と、発明の効果を分析をすること

 ②作文と③スケッチ

 では次に作文をしていきます。概念化では以下のようにまとめました。

 座部材…使用者が着座するための部材。

 板部材…使用者の背を当接するための部材。 

 このように見ていくと、発明品を構成する要素は、座部材と当接部材です。では、上記のまとめを元に作文してみます(②作文)。

 [特許請求の範囲]

 使用者が着座するための部材と、使用者の背を当接するための部材とを含む椅子。

 次にこの文に基づいてスケッチしてみます。この文から絵が描けるでしょうか。前半の部材については何となく書けますが、後半の部材については使用者がどのような状況において背と当接するのか、更には前半の部材と、後半の部材との関係が不明確であるため絵を描くことが難しいと思います。これでは意味不明な文となります。

 そこで、以上の点を踏まえて、推敲します。

 [特許請求の範囲]

 使用者が着座するための部材と、[この部材に使用者が着座した時に]使用者の背を当接するための部材とを含む椅子。

 このように推敲してスケッチすると、上記の問題点が解消されて下のような絵を描くことができると思います。

概念化のイメージ

 ここで、更に文をブラシュアップしてみます。「使用者が着座するための部材」は簡潔に「座部材」と表現すると、冗長な記載を回避できます。また、座部材と区別するために後半の部材を「当接部材」と名付けます。そうすると、以下のような表現になります。

[特許請求の範囲]

 使用者が着座するための[座]部材と、この部材[座部材]に使用者が着座した時に使用者の背を当接するための[当接]部材とを含む椅子。

 このような感じで特許請求の範囲を作成します。作文のコツとしては、構成要素が複数ある場合、各要素の関係を明確にすることです。各要素の関係を明確にすれば、文の意味も理解しやすく、スケッチもしやすくなります。

 以上をまとめます。

 ・特許請求の範囲は、「作文」と「スケッチ」を繰り返しながら仕上げていく。

 ・構成要素が複数ある場合、各要素の関係を明確にする。

 

 [応用]従来技術と区別する特許請求の範囲の書き方

 以上の通り、特許請求の範囲の書き方を説明しました。特許請求の範囲を書くための重要なことは主に2点です。

 ・余計な要素を書かない⇔要素数を少なくする

 ・意味不明な文を書かない⇔意味が明確な文を書く

 この2点が重要ですが、従来技術を意識して、従来技術が特許請求の範囲から外れるように書くことも重要です。しかし、発明者は、特許を出願する時に、従来技術を全て把握することはできません。審査の過程で思わぬ従来技術を引用されて特許性が否定されることもあります。そこで、この項では、想定される従来技術を意識した特許請求の範囲の書き方を説明します。

 上記の通り、特許請求の範囲は以下のように表現しました。

[特許請求の範囲]

 座部材と、座部材に使用者が着座した時に使用者の背を当接するための[当接]部材とを含む椅子。

 

 ここで、特許請求の範囲は必ずしも1つで構成されているとは限りません。特許請求の範囲には2つ以上で構成されていても構いません。この構成する要素を「請求項」といいます。実際には、

 [特許請求の範囲]

 [請求項1]

 座部材と、座部材に使用者が着座した時に使用者の背を当接するための当接部材とを含む椅子。

 というように記載します。

 では2つ目以降はどのようなものを記載するのでしょうか。

特許請求の範囲の説明図

 上図のように、請求項2以降は、請求項1の範囲を狭めるような記載をします。なぜこのような記載をするかというと、想定される従来技術を外せるようにするためです。例えば、上図のように白丸(〇)で示すものが従来技術として存在している場合、請求項1では特許性が認められません。しかし、請求項2では、白丸(〇)を含まないため、特許性が認められる場合があります。このように、従来技術を想定して、請求項の数を複数設けて、審査の過程で引用される従来技術を外せるようにしておきます。

 具体的に椅子の例で見てみます。

 例えば、請求項2と、請求項3を以下のような構成で記載してみます。

 [請求項2]

 当接部材が座部材の後部に配置されている請求項1記載の椅子。

 [請求項3]

 座部材を支持するための脚部材を含む請求項1又は2記載の椅子。

 

 請求項2では、請求項1で登場してきた要素である「当接部材」の内容を更に詳しく特定するものであり、このような記載を「内的付加」といいます。一方、請求項3では、請求項1で登場しない新たな要素「脚部材」を更に追加したものであり、このような記載を「外的付加」といいます。また、請求項2、請求項3はそれぞれ請求項1の内容のつけたしであることから、「…請求項…記載の椅子。」というような表現をします。

 もし、従来技術として、円形上の座部材の中央に柱が形成されたような形態が存在していたとします。この場合、請求項1にこの形態も含まれるため、請求項1では特許性が認められません。

椅子の従来技術


しかし、請求項2ではどうでしょうか。「当接部材が座部材の後部に配置されている」と特定することにより、上記の形態は外れます。下図の通り、上記の形態を白丸(〇)とすると、請求項2では外すことができます。

 このように特許請求の範囲は複数の請求項で構成します。そして、2つ目以降の請求項では、想定される従来技術を外せるように、請求項1の構成を付け足していきます。なるべく請求項数は多ければ多いほどよいです。

 以上を踏まえて、椅子の特許請求の範囲をまとめると以下のようになります。

[特許請求の範囲]

 [請求項1]

 座部材と、座部材に使用者が着座した時に使用者の背を当接するための当接部材とを含む椅子。

 [請求項2]

 当接部材が座部材の後部に配置されている請求項1記載の椅子。

 [請求項3]

 座部材を支持するための脚部材を含む請求項1又は2記載の椅子。

 

まとめ

コーヒーぼうや

 いかがでしたか。特許請求の範囲は、たった1文ですが、その1文が莫大な利益を引き起こしたり、莫大な損失をもたらしたりする重要なものです。それゆえ、特許請求の範囲を上手く書けるようになれば、相応の報酬を稼ぎ出すことができます。この特許請求の範囲は書くのが難しいので、この記事がご参考になればと思います。もしご不明な点等ありましたら回答しますので当方まで御遠慮なくメール(yamatenisanアットgmail.com)を頂ければと思います。ツィッターもやっていますのでそちらでも構いません。

 以上